【2020年6月】今月読んで良かった本の紹介

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目次

流浪の月(凪良 ゆう)

2020 年本屋大賞 1 位の作品。読み始めたのは夜からだったけど深夜二時頃まで手が止められず、結局買ったその日に味わい尽くしてしまったし、当然翌日の仕事に響いた。

描写はそのどれもがモノクロくらい淡い色で脳裏に再現される。ハッピーな場面でもどこか儚さを内包してるような美しさというか。個人的にすごくツボ。

漫画を読んでいて実写化したらこのキャラはあの俳優、みたいなのとか、アニメ化したらこのキャラはこの声優、みたいなの、あるじゃないですか。

それと同じような感じで、この作品の誘拐犯が『今からここは倫理です』の主人公にしか見えなかった。そんな感じの男の人とそんな感じの男の人に誘拐された過去を持つ女性のラブストーリーです。ラブストーリーなのですが、デジタルタトゥーやら大衆の情報の受け取り方やらがテーマなので風刺効いてます。あとは"事実"と"真実"の違いなんかもよく描かれてます、ぜひぜひ。

メモしておきたい一節

どれだけ口を閉ざしても、わたしの名前はわたしを自由にはしてくれない。インターネットに漂う情報に襟首をつかまれ、小、中、高、アルバイト先、就職した会社でも、わたしが『家内更紗ちゃん誘拐事件』の被害女児であることは必ず広まった。  ――おまえ、誘拐されてる間、いろいろされたんだろう。  孝弘のあの言葉は、なかなかに世間というものの正体を表していたのだ。


対岸の彼女(角田 光代)

たまたまなのですがこちらも若干デジタルタトゥーを題材に採っている節があり。誰もがデジタルタトゥー的な被害者になりうる時代だし、明日は我が身だなぁなんて身を引きしめる今日この頃。YouTuber とかインフルエンサーになりたいと思って実際になって、なおかつバランス取って悪評とかをぬらりくらりしてる人とか心底尊敬してしまいます。

話が逸れましたが、基本は葵と小夜子という二人の女性が主人公で、現在の時間軸と過去の時間軸とで物語が進んでいき、あるとき起こったひとつの心中事件の真相を両軸から追っていくという形式。袋とじタイプの面白さでした。


ちょっと今から仕事やめてくる(北川 恵海)

等身大の社会人、とりわけ新社会人てこんな感じなのかなぁと想像させられます。僕はかなり緩く働いてるから実情は分からないけど、この小説が大きく評価されていて、共感を呼ぶなんて煽りが付けられていることから察してもまぁそうなんだろうなぁと。

生活や精神を削ってまで得られる紙切れの枚数を増やしてもしょうがないよねぇみたいなところに帰結してて、よくあるやつと言えばそうなんだけど、ストーリー性があるのとラノベなのとでかなり読みやすいのです。数時間あれば読み終わります。

新社会人というよりは文系の就活生なんかにオススメ。僕の知人でも文系で営業行って即辞めたり鬱こじらせた人とかいたりするので……。

メモしておきたい一節

僕には世界を変えることはできません!でも、そんな僕でもひとつだけ変えられるものがあります。それが、自分の人生なんです。そして、自分の人生を変えることは、もしかしたら、周りの大切な誰かの人生を変えることに繫がるのかもしれない。


最後の医者は桜を見上げて君を想う(二宮敦人)

死に関心がある人はすごく好きかも。僕も例に漏れずでした。

毎日患者二、三人が死ぬような大きな病院で働くお医者さん三人が主人公の話。医師は職業柄、死と向き合う機会が多いと思うのですが、お医者さんによっても死への捉え方は様々なようで(当然ですね)。一人は病に抗い、治療を続け、最後の最後まで延命ないし根治を目指して生きることこそを正義とし、一人は病に左右されない生こそを正しいとしている。

少しネタバレしてしまうと相反する死生観をもつ二人がお互いに歩み寄る系の話なのですが、その過程がうまくまとまってます。ただストーリー云々よりも、彼ら医師や患者さんの紡ぐ言葉一つ一つがよく練られていて面白かったです。

一人称視点の形式で割とコロコロ視点が変わるのですが、序盤では患者さん目線にもなります。一人称なので心情も詳細に描かれているのですが、不安定ですごくリアル。

僕も何度か「これ癌か白血病じゃね?」って思う症状が見られたりだとか心臓に痛みを感じて「あれ、これ死ぬのでは?」みたいに思った場面がありました。そんな時に初めて、「自分が近い将来死ぬとしたら」って前提で真剣に色んなことを考え始めるのですよね。普段何気なく「別に癌なってもいいし」なんてタバコふかしたり、「どうせみんないつか死ぬじゃん、早いか遅いかの違い」みたいに冷めた考えでいて、仮にそれが今現在の本心であったとしても、病気になった時の本心と同じであるとは限らないわけです。 『終末のフール』だとかもそうですが、近い将来の死を宣告された人間がどう動くのか、残された時間をどう使うのが当人にとって最も有効的か、みたいな話は読んでいて飽きないし、そうならないために頑張ろうとなる。そんなわけで読了後はやたら健康志向になれる一冊です(どうせ翌日には元に戻ってる)。

メモしておきたい一節

死に振り回されると、往々にして生き方を失います。生き方を失った生は、死に等しいのではないでしょうか。逆に、生き方を維持して死ぬことは、生に等しいとは言えないでしょうか

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