【2020年7月】今月読んで良かった本の紹介
6分目次
ジョーカー・ゲーム(柳 広司)
戦時中陸軍の「悪魔」と呼ばれる引退スパイによって秘密裏に設立されたスパイ機関=D 機関の話。
そのスパイ機関に所属する各人物が章ごとに主人公を張る短篇集のような感じ。当然彼らはエリートなので節々にウィットや含蓄に富んでて単純に知的好奇心くすぐられます。
全三部作あり、第一部作は D 機関の理念やスパイの心得など D 機関の紹介とともにスパイたるものこうであるといった色合い。第二部作は偶然というワードが散見されます。エリートたちやその他有象無象がどのように偶然の出来事を不運とするか幸運とするかを描いています。第三部作は二週間前ほどに読み終わったのですが、ほとんど印象に残っていません。シリーズ物は一作目が至高ですね。
スパイの心得なども幾つも出てくるのでスパイになりたい人はぜひぜひ。
メモしておきたい一節
何かにとらわれて生きることは容易だ。だが、それは自分の目で世界を見る責任を放棄することだ。自分自身であることを放棄することだ
ある男(平野啓一郎)
死んだ夫がまったくの別人だったという奇妙な依頼を受けた弁護士が真相を探る話。
もうこのあらすじの段階で面白いですよね。どうやって別人になったのか、なぜ別人になったのか。そこら辺が弁護士の目を通して描かれていきます。
文体が、というより難解な言葉をあえて使っているのか、読みづらい面もありますが、まぁ意図してやっているのかもしれません。今どき難解な言葉を書籍で使うのって意味ないことな気がするんですけどねぇ。
また、どうでもいいことなのですがノンフィクション風に描かれた作品で、当然現代日本が舞台です。個人的に手を叩くほど面白かったのが、弁護士が家族でスカイツリーに行った場面。僕もスカイツリーから 10 分くらいのところに住んでたことがあるので
レストランフロアは、どの店も気が滅入るほど長い列が出来ていたが、七階の世界のビールを集めた店だけはすぐに入れそうだったので、
この一文のリアルさがよく分かります。スカイツリーのレストラン街の店はほとんどに足を運びましたが、どこも軒並み値段と料金が釣り合ってなく、それでも立地に恵まれてか常に混んでいて、その中で何故かビールの店は空いているのですよね。
メモしておきたい一節
若い頃は、愛することとその相手の思想との関係なんて、考えもしませんでした。愛を過大評価していたのか、思想を過小評価していたのか。
聖の青春(大崎 善生)
良い。すごく良かった。映画化されたので割と多く知られているかとは思いますが、将棋のプロである村山聖棋士の人生が描かれています。
将棋のプロの世界は年齢制限(X 歳までに X という階級にいなければならない...etc)など色々厳しい制約があるようで、そのシビアな世界を難病を抱えながらも駆け上がっていく様に胸が打たれました。彼と病との付き合いは幼い頃からであり、若くして亡くなった理由もまた病であるので、常に死と隣り合わせのような状態で生き延び、戦っていったわけです。そんな彼だからこその達観した死生観、人生観、価値観が随所に散りばめられていて、それらひとつひとつ拾う度に一旦文字を追う目が止まってしまい、少し考えさせられるものがありました。ピュアなんです、凄く。
将棋に関して深く掘り下げられていたり彼の棋譜なども掲載されているので、将棋を知らない人にしてみればなんのこっちゃという場面は結構あるのですが、逆に将棋を知っている人からしたらもっと本作を楽しめたのでしょうね……悔しい。
メモしておきたい一節
人間は常に主観的で、自分自身の痛みでしか他人の痛みを理解できません。ですから体に障害があったり重い病気の人の気持ちを真に理解することはありません。哀れみも同情もありません。常に対等という意識です。